『やれやれ、できればあんたらとは戦いたくなかったんだがな』

『それは私たちも同じよ。でもいずれこうなるのは分かっていたことでしょう』

 そこには男と、大柄な女と、小柄な女がいた。

 男は女達と向かい合って立っている。小柄な女よりこころもち前に立ちこちらを見据える大柄な女が言葉を返し、男もため息をついた。

『…まあ、まわりの状況を見ていれば、な』

 戦いたい相手ではなかった。

 お互いに相手の強さはよく知っていたから。

 けれど、状況は戦わないことを許さない。

『それに、どんなに戦いたくなくても、結局は戦うのでしょう』

『その通りだ』

 大柄な女の言葉をきっぱりと肯定する男。

 その視線は正面から女達を捉えており、その瞳に迷いは無い。男が本気であることは疑いようもない。

 やがて男は女達に向けていた視線を虚空に移し、語り始めた。

 

 

『容姿からしてまわりの兄弟達とは違っていた俺は、親からも気味悪がられ、捨てられた。まだほんのガキのころの話だ』

『…』

『…』

 女達は黙って男の言葉に耳を傾ける。

『住むところのない、食うものだって残飯を漁るか、でなきゃそこらの雑草でなんとか食いつなぐ… そんな生活だった』

 男の、過去。

『まわりの連中は気味悪がって近寄らないか、でなきゃ囃し立て、攻撃してくるかのどっちかだった』

 ある程度は彼の過去についても知ってはいたが。

『当時はまだ力もないただのガキだったからな。一方的にやられるだけだったさ。おかげで生傷の絶えない日々だった』

 だがまさか。

『滲んだ血とこびりついた泥が固まって、更にみすぼらしい姿になる。すると更に気味悪がられ、更に激しい攻撃に晒される。悪循環だよ』

 まさか、ここまで。

『本当に酷え生活だった。今思い出しても寒気がする』

 ここまで悲惨なものだとは思いもしなかった。

『そんな俺に手を差し伸べてくれたのがお嬢だった。俺は神なんぞ信じねえが、あの時だけはお嬢が女神様に見えた』

 そう言う男の表情は、先程までの陰鬱さからは考えられないほど穏やかだった。

『お嬢が拾ってくれたから俺は今もこうして生きている。でなきゃとっくに野垂れ死んでただろう。その恩を少しでも返すために…』

 男は虚空から女達へと視線を戻し、言い切った。

『お嬢に勝利をもたらす。それが今の俺の存在意義だ。そのためならどんな汚いマネだってするし、どんな戦いたくない相手とだって戦うさ』

 

 

 大柄な女が口を開く。

『…あなたの主への忠誠はよく分かったわ。けれど、それは私たちも同じこと』

 男に主がいるのと同じく、女達にも主がいた。

『お嬢様は私たちに本当に良くして下さった。ただの護衛に過ぎない私たちに本物の姉妹のように接して下さった』

 戦いたくないのは相手の強さを知っているためだけではない。

 彼らはお互いに共感できた相手だったから。

 仕える主は違ったとしても、それぞれの主のために戦う、同様の存在だったから。

『私たちはあなたのように酷い状況から救って頂いたわけではない。けれどそれが忠義で劣る理由にはならない。そもそもお嬢様を守るのは私たちの本来の役目』

 けれど、だからこそ。

『私たちはお嬢様を守る。お嬢様の敵の兵であるあなたを倒す』

 だからこそ、お互いの主が敵対する立場となった今は。

 戦わざるを、得ない。

『全く… いくら最高の主人にだとしても、辛いもんだな。仕えるってのは』

『ええ… お互いに、ね』

 男は女達の主を認めていた。

 女達も男の主を認めていた。

 今の主とめぐり合っていなければ、そちらに仕えていたかも知れないと思えるほどに。

 しかし現実には、男は男の主に仕え、女達は女達の主に仕えていた。

 そして、お互いの主は現在、敵対していた。

 ほんの少し前までは仲間と言える間柄だったが、それでも今は敵対しているのだ。

 ―ならばやはり、男と女達は、戦うしかない。

 

 

 ―なのに。

 

『姉さん…』

 これまで黙っていた小柄な女が口を開いた。

『何?』

『私、やっぱり… 彼とは戦いたくない!』

 

 ―小柄な女は戦いを拒否する。

 

『なっ… 今更何を言ってるのっ!?』

 小柄な女の方へ振り返り、問い質す大柄な女。

『だってそうでしょう! ついさっきまで仲間だったのに、どうして戦わなきゃいけないの!』

 しかし小柄な女は怯むことなく言葉を返す。

『それでも今は敵なのよ! 私たちの役目はお嬢様を守ること、忘れたとは言わせないわよ!』

『忘れてない、忘れるわけない! それでも戦いたくないのっ! だって、私、彼のことが…』

『それでもっ!!』

 小柄な女の言葉を遮る大柄な女。

『たとえ彼のことを認めていたとしても、尊敬していたとしても、愛していたとしても! 戦うしか、無いのよ!』

 叫ばれるその言葉の悲痛さは、相手にと言うよりもまるで自分に言い聞かせているようで。

『姉さん… もしかして、姉さんも…?』

 小柄な女は、自然とその結論に辿り着いた。

 しかし大柄な女は、否定も肯定もしないまま、小柄な女に背を向ける。

『…戦いたくないならあなたは下がってなさい。私だけでは厳しい相手だけど、何とかするわ』

『姉さん… ううん、私も戦う。戦わないなんて言ってごめんなさい』

『…無理しなくていいのよ?』

『ううん、無理じゃない。それより今は姉さんこそ無理しようとしてる』

『…』

『姉さんもそうなら… 私も戦う。姉さんだけに背負わせはしない』

『そう…お願いね』

 ぽつりと、大柄な女が言った。

 

 

 『話は済んだか?』

 黙って様子を見ていた男が言う。

『ええ、時間を取らせて悪かったわね』

『気にすんな。俺の方も言っておきたいことがあるし、な』

『何かしら?』

『これが最後かもしれないから言っておく… 俺、あんたらのこと、嫌いじゃなかったぜ…』

『…できれば、もっと早くにその言葉を聞きたかったわね…』

『私もです…』

 女達が、男に答える。

『そうか…』

 しばらくの間、あたりが沈黙に包まれる。

 やがて、男が口を開いた。

『それじゃあ、始めるとするか… 戦いを』

『ええ…』

『はい…』

 男と女達、仕える者たちの望まぬ戦いが、今、始まる。

 

 

 

 

 

「ぬぅおー、ぬおー」

「オンッ! …オンッ!」

「ヴァウ! …ヴァウ〜」

 

「…何かドルジもストレルカもヴェルカも盛り上がってるみたいだけど… 何言ってんだろ?」

「あたしが知るか」

「私にも分からないのです…」

 

 

RANK6 怒涛のニンジャファイターリン 棗鈴  VS.  RANK8 キューティ☆クーちゃん 能美クドリャフカ

使用武器:ドルジ                        使用武器:ヴェルカ&ストレルカ

 

「バトルスタートだ!」

「ぬおー」

「オンッ!」

「ヴァウ!」

 

 男…ドルジと、女達…ヴェルカとストレルカの、望まぬ戦いが始まった。

 

 

 

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